みなさま、お久しぶりです。いかがお過ごしでしょうか。トロントは雪が降っていてものすごく寒いです!今日はマイナス16度です。
さて、最近、日本の方からお問い合わせをいただきました。その方は非営利団体が「各自で資金を調達できる・もしくは収益をあげることができるビジネスモデルが必要ではないか」と考えていると仰り、カナダでの非営利団体の事例を教えて欲しいとのことでした。
そこで今日はこの「各自で資金を調達する・収益をあげる」ことについて考えてみたいと思います。
まず前提としてカナダのオンタリオ州における福祉事業やサービス提供に関するファンディング(資金提供)の方式は日本とは違うので、日本のNPO法人とは簡単には比較できません。
というのは、基本的に福祉サービスの提供を担うのは「民間」なのです。
(民間が公的な福祉サービスを提供するということの意味と問題点については、今回は考えません。)
例えば、オンタリオ州に47箇所ほどある児童相談所も、すべて「民間の非営利団体」です。ただし、児童相談所を含む公的福祉サービスの場合には、その財源はほとんどすべてが州(や国や市)が拠出しています。すなわち財源は税金で、事業の運営は民間が行うという住み分けができているのです。
例えば、トロントの児童相談所の年間事業規模は1億7千万ドル(160億円)です。そのうち95%がオンタリオ州、3%が国からの税金、0.5%が基金からの拠出金です(※1)。
児童相談所だけではなく、福祉事業は受益者に費用を負担してもらうことが困難なことが多いので、様々なサービスは基本的には無料です。そのような各団体は頑張って、様々なところからお金を取ってくるところが多いです。市や州の助成金事業や委託事業に応募するのはもちろん、助成金を応募しているような事業以外の時には、議員や市長、州長に会ってサービスの必要性を働きかけるなどのロビイングなどをして予算をつけてもらうこともあります。(注)
カナダでは当事者や支援者やスタッフが、「アクティビスト=活動家」として、問題を可視化して、そこにお金をつけてもらえるように頑張っています。
ロビイングはソフトな運動のやり方ですが、街中でデモやプロテストなどのより激しい運動、メディアを使った訴えかけなどを行うこともあります。
例えば、先日非常に寒い日が続き、各地のホームレスシェルターがいっぱいになってしまった時には、ホームレス支援団体や当事者が声をあげ、市に働きかけて、すでに臨時にオープンしていた会議場だけでなく、カナダ軍の施設にも100ベッドの臨時シェルターを迅速にオープンさせたということがありました(※2)。
また2017年にオープンした、薬物を安全に摂取することのできる拠点、セーフインジェクションサイトも市民の活動の結果出来たものです。
なお、非営利団体の事業に対し税金が拠出される場合は、プロジェクトベースの委託金や助成金の形式が多いようです。
新たに州や市に、予算をつけさせ資金を拠出させるには、社会問題を可視化することが必要となります。さらに継続的に支援してもらうには、その予算によって「結果」が出ていることを明確化しなくてはなりません。そのために調査やプロジェクト評価、研究などに力を入れている団体もたくさんあります。
今後、日本でも期間の短いプロジェクトベースの助成金が増え、その結果に対する効果の可視化がより一層求められることでしょう。
(カナダの調査・プロジェクト評価の取り組みに関してご関心のある方は、資生堂財団の『世界の児童と母性』に寄稿した「CAS に調査研究部門を設置する意義」をお読みください。)
しかしながら、福祉は事業の特性として、すぐに「利益」が上がったり「結果」が出るものではありません。
例えば児童福祉の分野で「利益があがる・結果が出る」とすれば、その子どもたちが大人になった十数年から数十年後でしょう。
そのため福祉やソーシャルワークで示すことのできる「成功・結果とは何か」というのは非常に難しい質問となります。
非営利団体において、本当に「社会の問題だ」と感じ、その「事業が社会に必要なのだ!」と思うならば、そのための資金を確保したり、収益を確保して事業を行うだけでなく、「社会を変える」ことが必要なのではないでしょうか。社会制度や、社会構造自体を変える必要性です。
そのために「エビデンス=根拠」を明示し、わかりやすく宣伝(PR)し、人々に共感してもらうことで、人を巻きこみ、政治参加等によって制度をかえるなどで、 社会に訴えかけていく必要があると思うのです。
現在の社会の仕組みの中だけで「収益を上げる仕組みを」「自己資金を調達すべき」とだけ言っていては、事業内容によっては成功する団体もあるかもしれませんが、児童福祉や結果が見えにくい分野の団体には難しく、中にいる人の疲弊すすと思います。
日本でもカナダでも、自治体と協働したり、大小様々な助成金に応募したり、寄付を募ったりと、小さな団体で頑張っているところが沢山あり、スタッフが手弁当状態だったり、給料が安くて大変だったりするところも多いです。
(カナダの非営利団体は職種によって給料はまちまちですが、それこそ「児童相談所」のような公的事業を担う団体は、公務員と同等のお給料です。カナダでも小さな団体は給与が安く厳しいところもありますが、他の仕事を掛け持ちしたり、アルバイトをしているスタッフがいる日本の状況と比べると、一つの仕事で食べていけるくらいには給与がもらえるのは日本よりは状況がよいのではないかと思います。)
では、逆に自己で資金を調達し、収益をあげることで運営を行なっている団体は、良い団体なのでしょうか? 税金で公的に支出すべきはずの福祉サービスを民間が担うことにより、受益者負担が課される場合は、利用できる人に格差が生まれます。さらに自治体や政府にとっては、これらの団体が福祉サービスを提供することで、拠出するお金や、公的に行っていた(行うべき)サービスを減らすことができるので、非常に都合が良い存在と言えるでしょう。
福祉を担う非営利団体は、既存の仕組みの中だけで団体運営を行ない、公的サービスの代行者としてサービスを提供していくのではなく、社会の問題を発見し、社会に訴え、そして社会を変えていくことも求められていると思います。
(注)
もちろんカナダの非営利団体にも企業や個人からの寄付や事業収入を得ている団体もあります。 大きな会社や非営利団体の中には、「ファンデーション」と言われる「基金」を作って、寄付金を集めている団体があります。またファンドレイジングだけ行う専属のスタッフが何人もいたり、PRやファンドレイジングを行う企業に寄付金集めをアウトソーシングしている場合もあります。しかし上に述べたように、公的な福祉事業を行う団体では、その資金の多くを寄付や事業収入に頼っているというところは少なく、公的資金が拠出されているのが普通です。