身分証明書の性別欄は「男・女・X」

ソーシャルワーク・タイムズ vol.190 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol. 109 より転載

· 制度政策

お久しぶりの投稿になってしまいました。トロントでは昨日雪が降りました。今は外はマイナス3度だそうです。マイナス20度になることもあるので、まだまだ大丈夫!という気持ちです。

さて、今日はカナダのパスポートの性別欄に「男」「女」以外の選択肢が増えたことをお伝えしたいと思います。

2017年8月31日から、カナダのパスポートには、男(M)、女(F)以外に「X」と記載できるようになりました。
すなわち「男」「女」ではない性別ということです。

カナダにはトランスジェンダーを含めて、「性別や性自認で差別を受けることがあってはならない」という法律があります(Bill-C16)。この法律に基づき、活動していた市民の声が届いて新たな制度ができました。

性別や性自認(ジェンダーアイデンティティ)というと、「自認している性別」と「身体の性別」が違うと言われる「トランスジェンダーやトランスセクシャル(性同一性障害)」がしられていますが、その中では、FTM(女性から男性(エフトゥーエムと読みます))やMTF(男性から女性(エムトゥーエフ))だけでなく、FTX、MTX(エフトゥーエックス・エムトゥーエックス)など、「男性・女性どちらでもない(どちらでもある)」という場合もあります。

自分の性別に違和感があると感じている人の中でも、どの性を自認し、どのように生活するのか(例えば、手術をするのか、戸籍の性別を変更するのか、ホルモン投与のみなのか、なにもしないのか)などは実に多様です。
(誰を恋愛対象として好きになるか(ならないか)という性的指向は、性自認とはまた別のものですのでご注意を。)

さらに男性器や女性器(やその一部)を両方持っていたり(いなかったり)する「インターセックス(半陰陽)」として産まれる人も1500から2000人に一人いるというデータもあります(※1)。
そのような赤ちゃんの多くは、早い段階で、手術でどちらかの性別として育てられることが多いというのです。

このような状況に対応するように、ブリティッシュコロンビア州などでは、出生証明書に男性・女性のどちらでもない「X」が選べるようになっています。

オンタリオ州などでもすでに免許証、健康保険証などにジェンダーニュートラル(性別無関係)なものが選べるようになっています。

2017年6月1日に制定された新しい法律(Bill 89)では里親や養護施設などの「社会的擁護の元にある子どもは、自分の性自認や性別に関する表現を決める権利が守られる」とされました。蛇足ですが、この内容が「子どもの性自認を認めない親からは、児童相談所が子どもを引き離す可能性がある」と間違って拡散され、議論を呼びました。

近年、性別は物差しの尺度のようなもので、女性と男性が二つにくっきり分けられるものではないと言われます。身体・自認・性的志向・表象・趣味や社会的な活動などによっても違うでしょう。

一方で、人は女性・男性という認識に従って生きているとも言われます。他人に対する対応も(意識せずにも)、相手が男女どちらであるかによってかなり変わっているのだそうです。そのため「男性でも女性でもない」と言われると、どう対応してよいかわからず不安に感じることがあるのだそうです。

そのためなのか、ブリティッシュコロンビア州での新しい出生証明書の世論調査では、58%の人が「X」という出生証明書の性に対して反対であると答えているそうです(※3)。これは反対に、42%の人がこのことを支持すると答えていて、多くの人に受け入れられているとも捉えることができます。

日本にはない身分証明書の性別欄の「X」。みなさんはどのようにお感じになりましたか。