多民族都市のソーシャルワーカー失格?

子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.115 ソーシャルワーク・タイムズ vol.210

· 移民

今回は、私がこの前実際に経験して「ソーシャルワーカー失格かも?!」と思った話をシェアしたいと思います。

土曜日の朝8時頃、日本語補習校に通学する途中でで20代くらいの女性に声をかけられました。

いわゆる幹線道路沿いで、その時間はほとんど人が歩いていませんでした。

彼女は近くの民家の方から歩いてきたように見えました。今回は仮に「おねえさん」と呼びたいと思います。

私は道でよく人に声をかけられるので、今回声をかけられた時にも、道を聞かれるのかなと思っていたのですが…。
おねえさんはかなりの片言の英語。

 

「英語が話せない」「メキシコから来た」と言うのです。(やはりどこかに行く道順を知りたいのかな?)と思って、何らかの言葉を待っていたのですが、ここで会話が詰まってしまいました。
 

「どこに行きたいのですか?」などと英語で聞きますが通じません。

「家は?お金は?家族は?知り合いは?」と簡単な単語で、ゆっくり短く聞いてもダメ。

 

「シェルターにいく?警察かな?電話してみる?」などと聞いてみますが、残念ながら全く通じません。

ここでおねえさんの様子を少し。


服装はごく普通でカジュアルなもの。ジーンズに革ジャンのようなものを着て、スニーカーを履いています。その日の朝8時の気温には少し寒そうかな、という感じもありましたが。

リュックサックを背負い、小さなバッグを斜めにかけて、手にはカナダの大型チェーンのスーパーの袋を2つ下げています。ちなみにそのスーパーの一番近くの店舗はバスで10分ほどのところにあり、徒歩で行くのは難しい場所にあります。先ほどは20代と書きましたが、後で考えると大人っぽく見えただけで10代後半だったのかもしれません。


さて、ここで質問です。皆さんだったら、この方にどのように対応しますか
 

私が話をしながら、まず頭に浮かんだのは、お金や食べ物を欲しがっているのかな…ということでした。


トロントではホームレスが多いです(正確には可視化されているため多く見えます)。

 

2013年4月の調べではシェルターなどに滞在にいる人を含めて約5200人でした。そのうち路上に寝泊まりしている人は約450人です(2013年4月時点)(※1)。2017年にはホームレスの方が約100人が亡くなったという報告もあります(※2)。

家賃が急騰しているトロントではホームレスが大きな社会問題になっているのです。


ホームレスの人が道に座って紙コップを置いたり、ダンボールにメッセージを書いてお金や食べ物を求める姿も時折みられます。中には通行人に積極的に話しかける人もいます。「難民として来たばかりで困ってるから、お金ください」「お腹が空いているから、食べ物買うために○ドル欲しい」「○○に行きたいからバス代をいくらちょうだい」など具体的に値段を言うこともあります。

しかし、このおねえさんの場合はそういうこともありません。私自身の思い込み、偏見を目の当たりにしました。

 

私の頭の中は「?」だらけ。数秒の間に色々と疑問が頭の中を駆け巡ります。「メキシコから来たっていうけど、飛行機で来たのかな?その場合、どうやって空港からここまで来たのだろう?手に持っているスーパーからはどうやってきたの?バス?昨日の夜はどうしたんだろう?」などなど。

完全に行き詰まった会話。日本語学校に子供を送迎している途中で急いでいて焦っている私。一応ソーシャルワーカーなのに、カナダが初めてで困っている人に、どこに行ったら良いと言えば良いか分からないなんて!

その時はとっさに近くにある教会を案内しました。比較的大きな教会なので、誰か助けてくれるのではないか、と考えたのです。土曜日の午前中に礼拝があるのも知っていました。しかし後でよく考えると、朝8時にはまだ誰もいなかったかもしれません(車は一台止まっていましたが)。

今、冷静になって考えてみると様々な選択肢がありました。(カッコ内は後日調べてみてわかったことです)

・地域の図書館を案内する。近くの図書館では、セトルメントワーカーという移民に対応してくれるスタッフがいるはず。(だけど土曜日は朝9時から)


・近くのコミュニティセンター(コミュニティハブ)に一緒にいく。中に入ったことはないけれど、保健センターや非営利団体などが入った地域のセンターなので、誰かが助けてくれるはず。(だけど土日は休館でした)


・シェルターを調べて電話したり、案内する。近くに女性向けシェルターがあると聞いたことがあって(息子の学校で寄付集めをしていた)そこに電話をして、場所を聞いて案内してあげたらよかった。(後に結構遠くてバスに乗らないと行くのは無理なことが判明)

いずれにしても朝8時だったので、コーヒーとベーグルでも買って食べてもらったらよかったかなとも思ったり。
今回は極端な例ですが、トロントでは、英語が通じないことがあります。私も時々、中国語や韓国語で道を聞かれたりします。多民族都市のソーシャルワーカーとしては、基本的な言葉は数カ国語で覚えておいた方がいいのかもなあ、と思わされました。実際に医師などはかなりたくさんの言語で基本的な言葉を覚えている人もいるんだとか。

さらに今回思わされたことは、「準備が出ていないと、とっさにはいい対応ができない」ということです。


皆さんがもし日本で「日本語(英語も)話せないんだけど、困ってる!」と声をかけられたらどうしますか?

日本だったらとりあえず、交番でしょうか。(日本の交番のシステムは素晴らしい!)トロントの警察は人によって対応が良くないことがあると聞いたことがあるので、警察には電話したくなかったのです。

いずれにしても、おねえさんが無事に安心・安全な場所にたどり着き、必要が満たされているようにと願っています。自分の偏見や準備のできていなさなど、色々と考えさせられた土曜日の朝でした。