Don’t ask, Don’t tell(DADT)

サンクチュアリ・シティ

(聖域都市)Toronto

〜在留資格などを聞かない・言わない〜

· AOP,移民

「社会的包摂」などという言葉で示されるように、誰も取りこぼさないというのが福祉社会に求められる理想である。必要な人に均等な機会と必要な福祉(サービス)を提供する。何らかの制度を利用したり、福祉サービスを受ける際に問題となるのが、在留資格を持たない人々である。

日本では「不法滞在」などと呼ばれて、入管への長期収容と強制送還が問題となっている。その多くは就労のために日本に来て、ビザの期限が切れた人々だが、日本人と結婚したり、子どもがいる人もいる。入管に収容されている人々がハンガーストライキを行っているのを聞いたことがある人もいるだろう。

トロントでも他の大都市と同じように、オーバーステイなど「不法滞在」などと呼ばれる人々がいる。

ただトロントと日本の大きな違いは、トロントが「サンクチュアリシティ(聖域都市)」と言われていることだろう。警察や学校、福祉事務所などが、在留資格などを質問しないそして答えないことができるDon’t ask, Don’t tell(DADT)ポリシーが採用されているのだ。

これには、福祉や教育、医療、警察にアクセスする過程で、在留資格がない人への(強制送還、収容や罰則)などへの恐怖を払拭し必要な制度、機関、サービスを利用することができるようにするという目的がある。在留資格がない人は多くの場合、医療、福祉、警察などのサービスを利用することを躊躇するからである。

例えば2007年には、トロント市教育委員会は、学生の在留資格を問わないという方針を出した。2006年に滞在資格がない学生2名が学校内で警察によって拘束されるという事件があった。本来安全であるはずの学校内でこのようなことが起こった事態を重くみた教育関係者や保護者、コミュニティメンバー、アクティビストから声が上がったのである。

時を同じくしてトロント市警察も2006年からDon't Ask ポリシーを導入している。これは犯罪被害者を守る、という目的で設定された取り決めである。例えば何らかの犯罪被害に遭った人が自らの在留資格がないために警察に通報できない、ということを防止するためである。

警察はその管轄が違っても、在留資格がないと知ってしまうと移民局に報告をしなければならないと法律で決められている。在留資格がない人(被害者)を移民局に引き渡すことをしないために、「聞かない」というルールを作ったのである。

このDADTポリシーは様々な団体のアクティビストが当事者と連帯するかたちで2004年ごろから声をあげ、活動を行ってきた成果である。トロントの草の根団体であるNo one is illegal (不法な人なんていない)はその活動をリードしてきた。

なお、医師、看護師、ソーシャルワーカー、児童相談所のスタッフなどが、クライアントに在留資格がないことを知っても移民局に報告をする義務は発生しない。

ただしこのDADTポリシーが徹底されているか、というと現場ではそうでもないようだ。在留資格を問う警察官もいるし、金融機関でも口座開設のためには在留資格が問われる。医療費はほぼ無料のカナダだが、在留資格がないとヘルスカードが発行されず自費負担となってしまう。

 

実際には多くの人が、罪悪感から在留資格がないことを警察、福祉関係者などに自分から告げるのだそうだ。

またカナダの公立の小中高校では近年、留学生の受け入れが盛んだが、そのビザを確認する際など(留学ビザの生徒は、国内の学生と違い学費がかかるため、どのビザでの滞在かを確認しなければならない)実際の運用面で課題はある。

実際に、在留資格のない子どもたちが学ぶのに弁護士などでサポートしている団体や、無料または格安のコミュニティのクリニックもある。

このように、様々な課題がありながらも、トロントでは民間団体だけでなく警察や市役所など公的な組織も一緒になって、多様なバックグラウンドを持つ人々を(なるべく)排除しない仕組みを作ろうとしている。

翻って日本の状況はどうだろうか。2020年3月22日に行われる入管と外国人に関する講演会についてのチラシをここに貼っておく。

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