みなさんは「日本人」以外の方がクライアント・お客様になる場面はありますか。それはどんな時でしょうか。「日本人」と「外国人」では利用できる制度やサービスが違いますか?またみなさんの対応はどのように変わりるでしょうか?
そもそも「日本人」「外国人」とは何でしょうか。国籍?市民権?使用言語?どれだけ長く居住しているか?
私の今の仕事の一つは、カナダの高齢者施設で「日本人・日系カナダ人・または日本文化を共有する方々(国籍問わず。例えば中には白人「カナダ人」も)」に対してサービス提供をすることです。具体的にはアクティビティや日本食の提供、相談など。
その中にはカナダ生まれの日系2世の高齢者の方々も含まれます。彼らは生まれも育ちも、もちろん国籍もカナダなのですが、自分たちは「日本人」であるといいます。また、日本生まれですが、すでにカナダ国籍を取得してこちらに永住している方々も同様に「日本人」と言います。
カナダ生まれの日系2世の方々は、複雑な過去を抱えていらっしゃいます。第二次世界大戦の際、1941年12月7日の真珠湾攻撃、その次の日から生活がガラリと変わったこと。新聞が出て、日本人は敵だと、子どもや中高生だった人は学校で言われ。
数ヶ月後には「日本人」として収容所や田舎に強制的に移動させられ、家財道具は没収されたり、また日本に帰らされたりした人もいます。また一方でカナダ軍の一員として戦った日系人の方もいます。
戦後は日本人が固まって住まないようにカナダの東側に離散させられたこと。そこでも学校や就職の時に差別されたこと。
「日本人」として、いつもそんな話を聞かせてくれます。
一方、日系カナダ人の3世以降くらいになるとほとんど日本語が話せない、日本文化や日本食に馴染みがないという人も多くいらっしゃいます。他方では、日本語が堪能で日本文化に馴染みがある韓国系、台湾系の方々もいらっしゃいます。
私の務める老人ホームでも、日本食を食べたい、アクティビティに参加したい、日本語の話し相手になってほしい、という方々がいらっしゃいます。そうでなくても日本が好きで日本食が食べたい、という方も。
提供している日本食の事や、財源や人的なリソースは限られているので、すべての方に対してサービス提供ができるというわけではありません。誰を優先すべきでしょうか。(組織的なルールは「日系人」が優先)
このように私のクライアントとなる「日本人・日系人・日本文化を共有する人々」って誰なのだろうとよく思います。ケースバイケースのことが多いのですが、一つ確かなことは、国籍は関係ないということです。
国籍とは法務省によると「人が特定の国の構成員であるための資格」です。そのため、自分の国籍と「自分が何人であるか」というアイデンティティは密接に繋がっていることが多いです。しかし必ずしも国籍とアイデンティティは一致しているとは言い切れません。特にカナダなど移民を多く受け入れている国ではなおさらです。
先日まで開かれていた冬季オリンピック。カナダでは多重国籍(正確にいうと市民権)が認められているので、競技団体のルール等よって、カナダ生まれやカナダ在住の選手が、他の国の代表として出場していました。また逆もしかりです。カナダ以外で生まれ育ちカナダ代表となった選手は、2018年冬季オリンピックは、225人中15人でした。
「日本は多重国籍を認めてない国」というと、他の国の人にびっくりされることがあります。カナダだけでなく、アメリカ、香港、台湾、韓国、オーストラリアなど多くの国で多重国籍を認めているからです(国によっていろいろな制限はあります)。
カナダには国籍(市民権)以外に、永住権という在留資格があります。これは国籍とは異なり、5年ごとの更新制です。5年のうち約2年以上カナダに居住していないと更新することができません。永住権があっても(税金を払っていますが)投票することはできません。
当面カナダに住み続ける場合や、将来その可能性がある場合には、国籍を取得した方が何かと不便がないのですが、日本では、明治時代から続く法律によって他国の国籍を取得した場合は日本国籍を喪失する(手続きを自分ですること)と決められています。外国で生まれた子どもの場合には、多重国籍になりますが22歳になった時にどちらかの国籍を選ばなくてはなりません。
一方で、現政権は、国際競争力を増す・労働者不足を補うというために高度人材や日系人、研修生などの外国人を受け入れています。その一環として「大学の外国人の教員割合を増加する」という政策があります。そのため大学教員の求人募集に「日本国籍でない者(non Japanese citizen)」のみが応募できるという条件があるものもあります。
この「国籍」しばりの応募条件は、問題があります。国際競争力を増すという理由なのに、ずっと外国で育ち、教育を受けていても日本国籍の人は応募できません。そもそも募集条件に国籍を入れるというのは、NGではないでしょうか。
カナダでは人材を募集する際に、国籍や民族などを聞くことは違法です。採用の条件は「労働できるビザを持っていること」。仕事に必要な能力など以外のことを聞いてはいけません。性別や年齢を聞くことも違法です。
移民を受け入れている国では、自分が何人であるかという意識や何語を話すかというのは、もはや国籍とは関係なくなってきています。
「日本人/外国人って何だろう…?」と改めて考えさせられる今日この頃です。