2017年10月、トロントでは「インヴィクタス・ゲームズ」という国際的なスポーツ競技大会が行われました。みなさんは、このスポーツの大会について聞いたことがありますか?
この競技大会は負傷した軍人のための「パラスポーツ」大会なのです。今回は2014年のイギリス、2016年のアメリカに次いで3回目の開催になります(2018年はシドニーにて行われました)。
2017年の大会には、イギリスからハリー王子が訪れており、初めてガールフレンド(現在のメーガン妃)と一緒に公式な行事に参加したことや、オバマ元大統領が来ていることで話題になっています。
今大会には、水泳、陸上、車椅子バスケ、車椅子テニスなど12の競技に、17カ国から500人の選手が参加しています。
参加国にはカナダ、アメリカ、オーストラリア、ドイツなどの他にアフガニスタンやイラクも。
カナダではテレビでかっこいいCMをしたり、新聞などに大々的にこの大会の広告を掲載しています。試合も無料で見られるものがあったりweb中継を行うなど、観客動員に努めているのがよくわかります。
国によって規模の違いはありますが、負傷した軍人がスポーツなどで成果をあげることを国を挙げて支援するところが増えているそうです。
そしてスポーツの分野で好成績をあげた人は、この大会やパラリンピックに出場することがあるそうです。実はパラリンピックも、もともとは負傷した兵士のための大会が起源になっているとか。
負傷兵がスポーツに関わることを国をあげて支援するのには、深い理由があるようです。
兵士とパラリンピックの関係を取材したNHKの番組、クローズアップ現代によると、アメリカからイラクやアフガニスタンに派遣された兵士の数は270万人(2001年から2014年)。そのうち97万人が心身の不調を訴えているそうです。そして今も1日に20人の兵士が自ら命を絶っているとのこと。
心身に不調を訴える兵士や元兵士に支払う補償額は、なんと年間1兆4,700億円。
そのような傷を負った人々の心身を回復させ、社会復帰を促進するために、スポーツが利用されているというのです。
スポーツを行うことによって実際の心身の回復を促すリハビリを行うのはもちろん、インヴィクタスゲームやパラリンピックで活躍する元兵士を見ることで、他の負傷兵の士気を上げたり、希望を持たせるという効果もあるそうです。
リハビリ施設の充実化などにより、負傷の回復後に戦場に戻る兵士も約2割にのぼるとみられています。
もともと軍人になる人は、経済的な理由が大きいと言われています。食べるため、学費を稼ぐため(学費の奨学金返済を免除にするため)、家族を養うため…。
心身に障害を抱えた後に軍人をやめざるをえず、収入が途絶え、貧困に陥る人もいます。
心身に障害を抱えて現場を退いた軍人の方達に手厚いケアが必要なことは言うまでもありません。スポーツが希望や夢を与えられるとしたら素晴らしいことだと思います。
しかし国として、スポーツで負傷兵の回復を促し、保障費を減らし、また戦場にいくことができる兵士を養成するという思惑があることも見えてきます。
平和の象徴であるはずの「スポーツ」の大会を通じて、また戦場に行く兵士が作られることにもつながっていることを知り、インヴィクタス・ゲームのとても「かっこいい」CMや、選手が活躍するニュースをとても複雑な思いで眺めています。
本来は戦争などなくなり、戦争で心身に障害を負う人などが出なくなることが一番だと思うのです。
NHK クローズアップ現代:http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3860/1.html