制度は人の生活を変える

ソーシャルワーク・タイムズ vol.147 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.84 より転載

· AOP,制度政策

当たり前のことですが、最近、「制度」は人の生活に影響するなあ、とつくづく思います。というのは、普段の生活もそうですが、カナダの移民のルールや学校制度を調べる機会があり、これら「制度」というものが、実に生活に密着しているなと改めて実感したのです。そして、「それらを知って、うまく使いこなしたり、申請したり、制度に従って生活をするのって難しい!めんどくさい!」というのも実感します。州によっても法律が違いますし。

例えば、オンタリオ州の学校制度。2年間の幼稚園(キンダーガーテン)から高校までが義務教育です(義務教育といってもホームスクールやオルタナティブスクールが認められていますし、16歳以降は自分の意思による中退も認められています)。カナダはいわゆる小学校にキンダーガーテンがついています。小学校は1〜5年まで(学校によっては6年、7年のところや、8年まで一緒のところもある)。中学は6〜8年、高校は9年〜12年です。
先日、学校の保護者会で聞いたのですが、もし高校で美術や理系やIBなど専門的なことを学びたい場合、8年生(日本では中2)の秋頃から冬に選抜があるとのこと。そして7年生(中1)の後半の成績が考慮されるとのこと(しまった!我が家の長女さんはすでに7年じゃないですか)。

どこの高校に行きたいのか、日本の中学校1年の時点で考え始める必要があるとのことでした。特別に選考を受ける子以外は地域の高校に進学します。でもトロントの場合、学区外の高校にも2箇所、越境通学の希望を出せるとか。

大学入学も、ペーパー受験はないものの、高校で取得した単位や科目内容によって受験できるかどうかが変わります。そして、選抜では学校の成績が考慮されます。そのため高校生は、早い段階で計画的に単位を取得して、希望の大学に入学するために単位を取らなくてはなりません。所定の単位が足りない場合には、13年生を履修して、いくつかの科目を取ることもあるそうです。

ちなみに入学のための学力試験はほとんどないようですが、学校の成績が重視されるため、家庭教師をつけたり塾に行ったりする人もいるようです。(あ、カナダのオンタリオ州では、世帯収入が5万ドル以下の人は大学の授業料は免除になります。これはカナダ国籍か市民権保持者か永住権保持者のみです…

移民の国、カナダでは、当然ですがその人の「ステータス」(カナダ国籍、カナダ市民権保持者、永住権保持者、就労ビザ、留学ビザ、観光ビザなど)も直接、自分の生活に関わってきます。例えば医療制度です。
カナダでは、処方薬、歯科、眼科以外の医療は基本無料ですが、オンタリオ州ではカナダ国籍者、永住権取得者(または申請中の人)、長期の労働ビザを持っていてフルタイムで働いている人のみなどが無料となるのです。医療費無料は限定された人しか使えないというルールがあります。それ以外の人は個人で保険会社の民間保険に入るか、自費となります。

医療が使えないと実際の生活で困ります。高額の民間の保険に入らなければならなかったり、なるべく病院に行くのを控えたり、市販薬で直そうと頑張る人も多くいます。(我が家のことですね)

(後日追記:BCに住んでいる友人に聞いたのですが、BC州では学生でも短期ビザの人でもすべての人がmedical systemに加入する義務があるそうで、加入している人は医療費は無料だそうです!)

さて、カナダに短期的に居住している人の中には、様々な理由で永住権を取得して移住を目指す人もいます。しかし、この永住権、現在は5年の更新制で、5年の間、3年間はカナダに住んでいないと更新できません。

政権が変わると制度も変わりますが、近年、永住権の取得は年々困難になっていると言われています。

カナダの移民のルールは、ころころ変わるのですが、基本的には、その時や将来、国が欲しいと思う人材が有利になるので、制度が変わる度に、職種や学歴などによって、有利になったり不利になる人が出てきます。

本当に制度がコロコロ変わるので、きちんと理解して、ついていくのが難しいです。

日本でも、もちろん制度は生活に密着しており、個人の生活に影響します。医療制度、介護保険制度や生活保護制度だけでなく、今、議論されている配偶者の扶養手当や児童手当、児童扶養手当など、生活に直接的な影響を受ける人も多いと思います。

健康であり、社会で活躍しているなど、その社会のマジョリティである時や「自立」している時は、制度における制約は、それほど感じないかもしれません(何を「自立」というかはここでは置いておきます)。

子どもや高齢者など一人で生きていくことが難しい人にとっては、福祉制度は必須のものであることが多いです。そして、それ以外の人にとっては健康が害されたり、収入が途切れたり、何か困った時に初めて既存の制度やサービスを初めて知る…ということも多いものです。

ですからソーシャルワークに携わる人は、クライアントが上手に制度を利用できるようナビゲートする役も担っているのだと思います。

一方、ソーシャルワークや福祉を担う人の役割は、それだけではなく(自分の考えうる範囲を超えて)クライアントの益になるような社会作りを一緒に行っていかなければならないのではないか、と考えてます。これをカナダではAnti-oppressive practice,AOPと呼びます。日本語では反抑圧主義実践などと訳されます。

政治の話は、日本ではタブー視されることも多いですが「個人的なことは政治的なこと」でもあります。

介護や医療や子どもの福祉制度など、生活に直接的に関わるものはもちろんのこと、様々な制度が変わることで、人の生活にどのような影響が出るだろうかと考えなければなりません。
また、この制度を作ることによって、社会をどのようなものとさせようとしているのだろうかと考えることも必要であると思います。
福祉の専門職として、国会で議論されていることや、議論されようとしていることは、自分や周りにどのような未来をもたらすのだろうか。億劫がらずにきちんと把握し、議論できるようになりたいと思います。