コンピテンシーを用いた実習の評価と成績(2)

子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.62 ソーシャルワーク・タイムズ vol117

· 大学院

先週の金曜日に無事に2年目の実習が終わりました。9月から6ヶ月間、長かったような、あっという間だったような…。大学院の同期生の多くはこれで学生生活を終了し、6月に卒業式を迎えます。卒業式を待たずに実習が終わってすぐに就職する人もいます。カナダには明確な就活の時期というのはないので、それぞれ卒業が決まると同時に、その時に出る求人に応募することが多いようです。

私はと言えば、まだ卒業はせず、夏学期の授業を履修します。さらに副専攻(collaborative study program)をしているアジア研究の論文を書く予定です。トロント大学では6月と11月の年に2回卒業式があり、11月卒業の予定です。

さて前回は実習の評価に「コンピテンシー」(能力や行動特性、適正)を使用していることをお伝えしました。この「コンピテンシー」はカナダのソーシャルワーク大学院ではとても大きなテーマです。大学院の最初の授業で、自分の強みと弱みとなるコンピテンシーを複数挙げて説明せよ、という宿題が出ました。当時の私は「コンピテンシーって一体、何?」と途方にくれていましたが…。

実習では各コンピテンシー分野をそれぞれ1から5点で数値化して評価します。コンピテンシー分野は5から6あり、それぞれ学生に最適な文章を4から6つ選びます。学生とスーパーバイザーがそれぞれ同じ評価を行い、それが総合的に数値化される仕組みです。

この評価方法は、トロント大学の教授陣が開発したそうで「科学的根拠」があるそうです。

学校によっては点数をつけずに記述式だけの評価や、スーパーバイザーの主観で点数をつけるところもある一方、この「コンピテンシー」を数値化した評価方法を使用する利点と欠点を考えてみました。

<利点>

・学生のコンピテンシーを数値化して見ることができるので、客観的かつ、それぞれのスキルや能力を可視化できる。

・スーパーバイザーの主観で数値をつけのではないので、どの実習先でも(比較的)平等に数値化できる。

・たくさんある選択肢の中から最適な文章を選ぶ方法なので、評価が楽。

・否定的な選択肢もたくさんあるので罪悪感なく(?)、学生が不足しているスキルを指摘できる。(北米は(?)いいことをたくさん書く傾向があるので…)

ただし欠点もあります。

<欠点>

・そもそも、学生のコンピテンシー(やスキルや能力)を数値化できるのか。数値化することは適切なのか、という点。

・選択肢の中で肯定的なものが限られている=選べるものが限られている。結果的に誰にでも同じようなものを選ぶことになる。

・どの選択肢を選ぶと何点になるのかなどはわからないので、肯定的な選択肢の中でも、どうしたら良い点数がつけられるのかわからない。

・コンピテンシーの分野や、それぞれの分野の中で選べる選択肢が決まっているので、その枠の中での評価になる(例:文化的な側面や、他の能力が考慮されない)

・何点が高いのか(合格点なのか)分からない

などなど。

点数のつき方については、一説には、スーパーバイザーと学生が同じ項目を多く選んだ方が高くなるという話もありますが、真偽のほどはわかりません。(この評価方法に関しては、論文や学会発表がされているので、もしかしたら調べればわかるかもしれません)

正直に言うと、分野ごとに「なんでこの点数?」と疑問に思うこともあります。

例えば自分や指導者・スーパーバイザーが、実習生の「コミュニケーション能力」よりも「倫理感・価値観」の分野の方が優れているなと思っていても、実際の点数が「コミュニケーション>倫理観・価値観」となることもあります。

そのため、この一見客観的な方法を利用して、コンピテンシーを数値化したとしても、分野間の比較は難しいと感じています。また他の学生がどの程度の点数を取っているのかはわからないので、点数を言われても高いのか低いのかわからないということもあります。そもそも各分野の合格点ってどのくらいなのでしょうか…。自分は高いのか、低いのかも、イマイチ分かりません…。

これらのことを踏まえて、ある程度まで達成できたと思われる分野については、細かい点数はあまり気にしない方がいいのかもしれません。また、特記事項や詳細や、コンピテンシーに含まれない部分についても、自由記述で補うことが肝要だと思います。

実際のカリキュラムでは実習は「合格」「不合格」の二つです。そのためこのコンピテンシーを用いた数値の評価が成績表につくことはありません。あくまでも、実習の1年目は2年目に向けて、2年目は今後、専門職として仕事をする際に、自分の強みと弱みを把握して成長するための参考にする、ということなのだと思います(もしかしたら採用の際に参考にすることがあるのかもしれませんが)。

このコンピテンシーを用いた数値での評価は、ビジネスの世界でよく使われているようですが、日本の福祉分野でも学生さんの実習や専門職の成長やスキルアップに使えるとは思います。実際に使っている組織もあるかもしれません。

ただし、使う時には注意が必要です。あまり細かい点数にとらわれないことや、評価の内容を日本の実践内容や職場に合わせることも必要です。

例えばカナダやアメリカでは、ソーシャルワークはカウンセリングや心理療法を担当しているので、内容がおのずと変わってきます。

さらにコンピテンシーは「専門職としてどうあるべきかという視点で評価軸が作られているはずなので、「誰が」「何のために」「どのように」その専門職を養成しようとしているのかについても考えなくてはなりません。

繰り返しになりますが、コンピテンシーを用いた数値での評価は、あくまで本人が、自分を振り返り、自分の強みと弱みを把握するという目的かつ、さらに今後、専門職としてより成長するために使用されるべきだと考えます。そしてその評価項目には、常に誰かの要請が入っているということも忘れてはなりません。

実習の評価は最後に数値を出して終わりではなく、普段からのスーパービジョン(指導的面談)日常的な振り返り、評価に対するフォローアップの説明がとても大切だと思います。(おわり)