コンピテンシーを用いた実習の評価と成績(1)

子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.61 ソーシャルワーク・タイムズ vol116

· 大学院

東京は桜が満開のようですが、今日のトロントでは4月なのに雪です…。

さて、みなさんが実習に行かれた時や、実習生を受け入れた時、成績や評価はどのようにされていますか?今週と来週はソーシャルワーク教育における実習の成績と評価についての、ややマニアックな話題です(いつもマニアックなのですが…)。

カナダ(やアメリカ)のソーシャルワーク教育は実習が重要視されており、トロント大学ではおよそ74日以上×2年間(1年目は68日以上)の実習が必須です。週3日の実習だと実に9月から4月あたままで6か月間。

今回のテーマは、その実習があと3日で終了するので書いています(笑)。

6か月も実習先に通っていると、気持ちの上では職場のようになっています。実際にそのまま実習先に就職する学生もいます。

カナダでは実習の成績や評価方法は学校によってそれぞれです。最初に学生が(かなり具体的な)目標を立て、中間と最後に実習受け入れ先のスーパーバイザー(実習担当職員)と学生による記述式で評価するところが多いようです。

一方、私の所属するトロント大学大学院では「コンピテンシー」(日本語訳は能力や行動特性、適正)の評価軸を使って、学生の能力や実習で達成したことを1点から5点で数量的に評価します。

実際の評価方法は、5〜6ある「コンピテンシー分野」すべてに対し、それぞれ15から30ある選択肢の中から、実習担当者が学生にぴったりくるものを4から6つ選ぶというものです。

コンピテンシー分野は、クライアントと接するダイレクト実習(カウンセリング、心理療法などをする病院から地域の福祉組織まで多岐に渡る)と、間接的なインダイレクト実習(研究や評価、アドミニストレーションなどの組織運営)で異なります。

ちなみにほとんどの学生がクライアントと対面する「ダイレクト実習」をしますが、私は1年目はダイレクト、2年目は調査・研究という間接的なインダイレクト実習を選択しました。

それぞれのコンピテンシー分野は次の通りです。

【ダイレクト(直接)実習:コンピテンシー5分野】

・Descriptor (学生に関する全般的な記述 注:これはコンピテンシーではありません)

・Behaviour in the Organization (組織での態度や姿勢

・Conceptualizing Practice (実践の理解と理論化

・Clinical Relationships (クライアントとの関係構築

・Assessment and Intervention(アセスメントと介入

・Professional Communication (専門職としてのコミュニケーション

【インダイレクト(間接)実習:コンピテンシー6分野】

・Learning & Growth (学びと成長

・Behaviour and Relationships in the Organization(組織での態度と関係構築

・Leadership(リーダーシップ

・Critical Thinking / Analysis, Planning and Implementation (批判的思考/分析、計画と実行

・Written and Verbal Communication (文章と口頭でのコミュニケーション

・Values and Ethics(価値観と倫理観

このように見ると、それぞれに求められているスキル(コンピテンシー)がかなり異なることがわかりますね。

それぞれのコンピテンシー分野の選択肢に加えて、最後に自由に記載できるコメント欄が設けられています。

スーパーバイザーと学生がそれぞれ選択肢を選びます。

各選択肢に点数が付けられているらしく(その点数は分かりません)、選択した内容によってそれぞれのコンピテンシー分野に1点から5点(少数第2位)の点数がつきます。(4.75など)

これを見ると、その学生がどの分野が強いのか、弱いのかがわかるということのようです。

噂ではスーパーバイザーと学生のマッチング率が高いと高得点になるとか、ならないとか。。。

この評価方法はトロント大学の先生方が開発したそうで、「科学的な根拠」があるそうです。トロント大学をはじめとして、こちらのソーシャルワークでは「Evidence Based Practice」=科学的根拠のある実践が大切であるとされているのです。支援の仕事には暗黙知という言葉もあるように言語化がなかなか難しい能力もあると思うのですが、コースの先生曰く「測れないものは存在しないのと同じです!(主張したいこと、評価したいことは可視化した上で測らねばならない)」とのことです。

ソーシャルワーカーに求められる能力も言語化して測定することが必要ということなのでしょうね…。

それぞれのコンピテンシー分野にある選択肢はトロント大学ソーシャルワーク大学院のウェブサイトで見ることができます。

来週はこのコンピテンシーに基づく数値での評価を使うことの利点と問題点、日本のソーシャルワークで使えるのかについて考えてみたいと思います。その頃には私の実習も無事に終わっているはず…です。