日本では近年、在宅介護が推奨されていますが、この傾向はカナダも同じです。馴染みのある地域で、自宅で過ごすことを望まれる方が多くいるからというのはもちろんのこと、施設での介護よりも在宅介護の方が公的な支出を抑えられるからという国の思惑があります。
介護施設の待機者人数は数百人いるところもざらですが、トロント市では新たな大型介護施設の建設は許可しない方針を打ち出しています。
在宅介護を行う場合、カナダでも自宅に訪問するホームヘルパーが活躍しています。日本とカナダの在宅介護を考える上での大きな違いは、次の3つが挙げられるのではないでしょうか。
それらは、1)家族の同居率の低さ、2) 国土の広さ、3)厳冬である、ということです。
1) 家族の同居率の低さ
2014年に日本で65歳以上の高齢者の同居率は平均すると43%(注1)。1980年代には約7割だったのが、1999年に約5割となり、年々減少しています。
一方、カナダでは、高齢者の家族との同居率はとても低く2011年時点で、約15%です(注2)。
近年、カナダでは高校や大学を卒業しても家を出ない子どもが増加していることが社会問題になりつつあります。これは若い人が安定した仕事に就きにくいのと、家賃が高騰しているためです。
これまでは、成人した子どもが親と同居することは、ほとんどありませんでした。今でも高齢の親と同居している人は日本に比べると少ないです。
そのため、生活上のサポートが必要となった場合には、夫婦間で助け合ったり(いわゆる老々介護)や子どもが通ってきて手伝いをする他、自費でお手伝いさんを頼んだり(資格を問わない)、公的な費用が出るホームヘルプサービス(home visiting care)を頼みます。
また夫婦での暮らしや一人暮らしが難しくなった場合に備えて「リタイアメントホーム」に入る方も多いです。「リタイアメントホーム」は高齢者専用賃貸住宅のようなもので、見守りや在宅介護サービスが受けられます。ただしこれは「住居」であって、「老人ホーム」ではないので、ある程度自立して生活できる方が対象となり、多くの場合施設的な24時間のケアは受けることができません。
経済的な余裕がある方は、住み込みのパーソナルサポートワーカー(日本のホームヘルパー)を24時間依頼することもあります。
2) 国土の広さ
カナダは世界で2番目の国土面積が広い国です。特にカナダの北の方は、雪に覆われている地で、人が住んでいない地域も多くあります。人口密度は、1平方キロあたり3.5人。日本は335人です。
そのため、トロントやバンクーバーなど一部の大都市を除き、移動は車を利用することになります。当然、ホームヘルパーも移動は車となります。介護士自身が車を所持していなければならないことや、訪問から訪問までの移動の時間がかかること、また、施設介護と比較しても時給が安いと言われる訪問介護の仕事は、施設と比較して敬遠される傾向があるようです。
最近、日本の都心で「在宅老人ホーム」というサービスがあることを聞きました。1キロ圏内を一つの区域とみなして、在宅でも、老人ホームにいるかのような24時間のサービスを受けられるというものだそうです。人口密度が高く、比較的楽に移動できる都心ならではのサービスだと思います。
3)厳冬
ご存知の通り、カナダは非常に冬が長くて厳しいです。本当に生活に支障がでるくらいのレベルで厳しいのです。
(ちなみに今日10月22日(土)の気温は5度、体感温度は1度です。)
カナダの中でも南に位置するトロントでも、マイナス20度などを記録する日もあり、寒波が来ると家から出られなくなります。地域によっては雪もたくさん降ります。すると当然、ホームペルパーの訪問時の移動は厳しいものになります。
このような理由でも、ホームヘルパーは介護の仕事は厳しく、敬遠されがちと言えるでしょう。
高齢化率が17%のカナダ、今後、在宅介護のサービスや人材がより一層求められるようになるでしょう。私も日本で訪問介護の仕事をしていたことがありますが、自転車で一日数件を周っていました。カナダでは、その働き方は無理だと思います。
このように環境的に違うところが多いため、制度設計もそれに基づいてなされなければなりませんが、
二つ目、三つ目の特徴は日本の農村部や山間部での様子にも当てはまる部分があるのではないでしょうか。日本で培われた介護の知恵やサービスで、カナダにも紹介できるものはないだろうか、と思っている今日この頃です。
注1 内閣府 平成26年高齢社会白書
注2 カナダ政府 2011年国政調査 高齢者の居住形態(英語)