助成金申請書を本音だけで書くとどうなるか

子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.114 ソーシャルワーク・タイムズ vol.209

· 組織論

非営利団体の運営に欠かせないのが助成金の申請。

申請書を書くのに苦労したことのあるのは私だけではないはずです。アメリカやカナダでは(日本でも近年)一つのプロジェクトを単位とした助成金が多く、プロジェクトの実施期間だけ非常勤のスタッフが雇われるということもあります。

さらに近年では、助成金のプロジェクトの期間が細切れになっていたり、すぐに目に見える結果が求められていたり、助成金の使い道が限られているということも多く、申請書、報告書を書く事務的な仕事がどんどん増えていることが指摘されています。

今回は、この助成金申請に関して、アメリカで興味深いコラムがあったので紹介します。

このコラムを書いたのは、マイノリティの中からリーダーを養成する事業を行なっている非営利団体を運営するボーレイさん。

このコラムは「実際に普段から助成金申請をしている担当者が、本音だけで助成金申請書を書いてみたらどうなるか」というテーマでユーモアたっぷりに書かれています。

ボーレイさんはコラムでまず、助成元の企業や自治体と、助成先の非営利団体(福祉団体を含む)の間には、力の非対称性があると指摘します。(もちろんそうですよね。助成される団体はお金をもらう側、助成元は選ぶ側なのですから。)このような力の非対称性は、円滑で正直なコミュニケーションを阻害するとボーレイさんは述べます。


正直なコミュニケーションがないとどうなるか。助成される団体は、お金をもらうために、助成金をくれる団体や自治体が好みそうなプロジェクトを提案し、たくみにその有効性を説明するのです。

ではもし、助成金申請書を本音だけで書いたらどうなるでしょうか。以下、ボーレイさんのコラムから抜粋して意訳したものをご紹介します。

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質問:このプログラムの先駆的なところは何ですか。
答:全部が先駆的です。先駆的すぎてプログラムデザインの有効性は不明、アプローチ方法は試していない、結果は未知です。実は私たちはすでに現在、結果も出ていて、科学的にも有効であると判明しているプログラムを実施しているのですが、そちらは昨年助成を受けてしまったので…。先駆的なプロジェクトがお好きだということで、今回このプログラムを適当に作ってみました。お金ください。

質問:このプロジェクトが採択されたら、資金をどのように使いますか。
答:正直にいうと家賃や光熱費、そしてスタッフが家族を養うための人件費に当てたいのですが、それは許されていないので言われた通りの使い道に使います。そして別の助成金にも応募して…(中略)どこの助成先が何に使えるお金をくれているのかということを整理するのに、かなりの時間を費やしています。サービス提供の時間を削って、です。使途が決まってない自由に使えるお金をください。

質問:このプロジェクトをどのような方法で評価しますか。
答:外部評価をしてもらうお金はないので、実習中の学生にやらせます。プログラムの最初と最後にアンケートを自分で記入してもらうという方法で実施します。報告書は立派に見えるように数字やパーセンテージなどを、たくさん載せようと思っています。本当は、自己回答方式のアンケートでは主観が入るし、回答者の選択のバイアスもあるし、変数もめちゃくちゃなので、結果を正確に測ることはできないとわかっていますが、ちゃんと評価している風に見せたいと思います。学生さんにケーキでも買ってあげたいので、お金ください。

質問:助成期間が終了したらどのようにプログラムを維持しますか。
答:一旦、御社からは離れて、他の財団などに、このプログラムが優れていることを伝えるべく付きまといたいと思います。コミュニティで必要とされているサービス提供やプログラムを改善するための時間を削って。そして数年後、忘れてくれたころに、また御社の助成金に応募します。どうかお金をください。

質問:本助成金で、地域にどのように変化をおこすことができると考えていますか。
答:笑笑笑笑笑。最高ですね!この助成金は5千ドル(約50万円)ですよ!助成元はユーモアがないって聞いてましたけど!5千ドルといえば、うちの事務所の家賃の6週間分です。確実なことは6週間事務所を開所できるということです。6週間で何を達成できるというのでしょうか。私、何か間違ってますか?もし本当に地域に変化が起こしたかったら、助成金額にゼロ3つ足してください。お願いします。

質問:金銭的支援以外で、当社が貢献できることはありますか。
答:他の支援先を紹介してください。そこからお金をもらいますので。

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実際には、もちろんこんな風には書けませんが、この本音から非営利団体の置かれた状況が見えてくるようです。日本の非営利団体の方々も共感する部分があるのでは…。


現場のニーズを知る非営利団体や福祉団体は、当事者とともに、どんどん声を上げて新しいサービスを作ったり、制度を変えていくべき!というのは理想ですが、実際には、お金を出す側の財団や自治体の要望や流行に合わせて、サービスやプログラムを設計したり、申請書を上手に書いたり…。はたまたもらったお金をやりくりして報告書を書いたたり…。

あの領収証どこ行ったーー?!とか叫んでみたり。

お金を出す側とうまくマッチしていればいいのですが、そうではない場合や、団体の扱っている問題が広く社会で認識されていない場合、資金集めはより大変になります。
ちなみに、アメリカやカナダには非営利団体の資金集めを専門に請け負う会社や、助成金申請書を書いてくれる grant writerという職業も存在します。
それほど助成金申請は大切、かつ大変な仕事なのです。

 

それではまた。

続きが読みたい方はこちら(英語)。
Nonprofit AF:Answers on grant proposals if nonprofits were brutally honest with funders
http://nonprofitaf.com/2018/02/answers-on-grant-proposals-if-nonprofits-were-brutally-honest-with-funders/