先週、6年生の娘が2泊3日の課外授業に行ってきました。行き先は五大湖の一つであるオンタリオ湖にある「トロントアイランド」(とても近いので修学旅行と呼ぶのは躊躇しました(笑))。研修施設に宿泊して自然や歴史について学んできたそうです。トロントはアメリカとも近いので19世紀からのアメリカとの衝突(というより移民同士の衝突)の際に作られた石壁が残っているなど、歴史的な見所もあります。
今年は暖冬で、雪も降っていないため、外での活動も出来た様子。ちなみに、この課外授業の参加費はなんと25ドルでした。子どもにも、親の経済的にも優しいカナダの公教育です。
さて、先日就任したトルドー新首相が2万5千人のシリアからの難民を受け入れることを発表しました。年内に1万5千人、来年2月までにさらに1万人がカナダに来る予定です。
木曜日に大規模な受け入れの第一弾となる163名がトロントの国際空港に到着しました。受け入れはテロ防止など安全対策のため男性の単身者はおらず、家族連れや女性がメインです。そして全員、カナダ国内に保証人(スポンサー)がいる人です。これは先にカナダに来ている親族や一般市民が保証人になり、難民を受け入れる制度。この場合、身元が保証されているため安全が確保されやすく、当面の住居の心配もないので受け入れのハードルが低いのです。自宅を改造して43人もの難民の保証人になった女性もいたそうです。
到着後は空港で冬用の衣類などがプレゼントされました。これらは非営利団体や慈善団体などが集めたものです。民間の携帯会社も、2年間は通話料を無料にするという支援を表明しました。
今週TVはこの話題で持ち切りでしたが、どの局も到着を歓迎する論調の報道でした。到着した人々の笑顔や、久しぶりに会う親族と涙の再会と興奮は見ているこちらも心を動かされるものがありました。
トルドー首相は受け入れ直前に空港で保証人になった方や親族など、到着を待つ人々に次のようなスピーチをしました(筆者の意訳)。
「今夜は素晴らしい夜です。今夜、これから到着する方々を歓迎するだけでなく、私たちが心を開いて悲惨な状況から逃れようとしている人々を受け入れる姿を、世界中に披露しようではありませんか。今回、受け入れをするということは、今夜だけのことではありません。この先、数週間、数ヶ月、数年に渡り、大変な仕事が山積するでしょう。それは今夜、そして今後到着する方々や家族の生活を築くことができるために、そして、この素晴らしい国の成長と発展に貢献してくれるようにするため必要なことなのです。
今日、これから到着する方々は『難民』としてタラップを降りますが、このターミナルを出る時には『永住権を持った市民』です。健康保険も社会保障もあり、正式なカナダ人になる機会もあります(訳者注:「永住権を持つ市民」と「国民」は異なる属性)。
これがこの国で可能なのは、私達が『カナダ人』であるということを、皮膚の色や言語、宗教、出身地ではなく、共通の価値観、夢や希望、志をシェアしている人々であると規定しているからです。皆さんのご協力に心から感謝します。この受け入れは、カナダだけでなく世界中に影響をもたらすと信じています。」
多民族国家で受け入れ態勢が比較的整っているカナダと言っても、到着した方々はこれからが大変です。家探し、言語の習得、職探しなどが待っています。特に職探しは簡単ではありません。カナダの失業率は約7%。難民の方が多く居住する予定の大都市は人口が集中し、仕事が不足しているだけでなく、家賃を含む物価の高騰が続いているのでさらに厳しい状態です。移民を調査した研究では、移住後の方がメンタルヘルスが悪化するというデータもあります。
難民の受け入れには、世界各国の姿勢の違いが如実に現われています。カナダでも未だに否定的な意見があるのも事実です。意思決定までには膨大な議論も必要です。
ただ今回のことで感じたことがあります。それは、世界中で難問が山積する現代の社会問題に対して、ソーシャル・ジャスティス(社会正義)とポリティカル・コレクトネス(政治的、社会的正しさ)に照らし合わせて、人間としてやるべきことはやる、という姿勢です。
問題が大きければ大きいほど実行は困難で、意思決定も大変になります。出来ない理由を挙げるのは実際に行うよりも簡単です。しかし世界を良くする方向に向かわせるには、考え続けること、対話し続けること、人と未来を信じること、そして諦めずに挑み続けることが必要であるという、強い意志のようなものも感じました。
翻って日本は今、どうでしょうか。世界の人と共に、いるでしょうか。