2014年9月からトロント大学大学院でソーシャルワークを勉強しています。2年目となる2015年は、社会福祉に関する基礎科目と2カ所での実習(1年目春〜夏、2年目秋〜)に加えて、専門として選択している「社会福祉組織の運営」のクラスを複数受講しました。それらは人材管理、財務、リーダーシップ論、リサーチとプログラム評価、ロジックモデルに関するものなどでした。
これらを学ぶ中で、気付いたことがあります。それは組織の運営や人材の管理では「基本を守る」ことが最も重要なことなのではないか、ということです。
私の関心のある分野の「スタッフのケア」の他、仕事の能率アップや費用対効果、やりがい・満足度アップのための施策として、カナダでもスーパービジョンや新たな評価制度、ストレスマネージメントやマインドフルネスなどに注目が集まっています。
もちろんストレスマネージメントやマインドフルネスはある程度有効です。しかし、これらは問題解決を個人に帰することにもつながるのではないかと思うようになりました。
これらの施策以前に、または同時に、まず職場の環境全体(または社会全体の問題)として捉えなければならないのではないでしょうか。そのうち最も基本的なことは「法令遵守」であると考えます。特に日本では。
大学院の授業では「法律を守ることは基本中の基本。例外はありません。それらに加えて、組織として実施できることを考え、議論しましょう」というスタンスでした。
言い換えれば、働きやすい環境が作りには、労働に関する法律に基づく労働時間、休憩、休日、賃金、職員の配置、労働者の安全と心身を守る施策、などが守られていることが必須と言えます。
ちなみにオンタリオ州では、フルタイム労働者は最低でも年に2週間の連続した長期休暇を取ることが決められています(勤続年数や労働時間により増え、合計で5週間休みがあるという方もいます)。その他の有給を消化しない場合、企業がその分の賃金を払わなければならないので、有給消化率も高いです。
また差別が明確に禁止されているため、就職の際には、年齢、性別、国籍(出身地)などを聞く事はありませんし、履歴書に写真の添付もしません(実際には、出身地などでの差別があると言われていますが)。
さらに(特に公的な仕事で)労働組合が強いカナダ。年中どこかでストライキをしています(2015年もトロント教育委員会の教員や、大学でストをしていました)。日本の福祉の問題を話すと「日本の福祉組織には組合はないの?」とよく聞かれます。(ちなみに日本の公務員は組合に入れないんだよー!!カナダはもちろん入れます!)
正社員(フルタイム)の権利や福利厚生が充実しているのは、カナダも日本も似ていますが、また組合はパートタイムでも入れる職場もたくさんあります。
カナダでは、過去30年ほど市場主義による利益の追求をしすぎた結果、福祉カットや(社会福祉や公的な仕事も含め)短期雇用や非正規で不安定な仕事が増えました。その結果、現在キックバック(反動)が起こっていると言われます。市民による反抑圧主義を掲げる権利運動が起こっていたり、今年誕生した中道左派のトルドー政権につながったとも言われます。
しかしこのキックバック(反動)は、カナダにおいて、本人の権利や「正しい」と思うことを主張することができる環境や教育、異なる意見を持つ人々が議論ができる素地があるから起こった、と言えるのではないかという印象を受けています。
子ども達の小学校の教育内容を見ていると、異なる意見を受け止めて、議論をする方法はしっかり学ぶようです。例えば算数でも、テストでも計算式と答えだけを書くのは低評価。図や文章を使って、自分の考えをしっかり説明しなければならないのです。
このように今年は基本を守ることの重要性、そして何を大切にするか価値の違いや教育方針によって、社会全体が変わってくることを体感した一年でした。
読者の皆様には、一年間お付き合いいただきありがとうございました。私の在籍する大学院のプログラムは、あと7ヶ月あまり。来年は何を学び、何を吸収できるか今から楽しみです。
2016年も引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。