日本ではここ数年、子どもの貧困率の高さ(2012年で16.3%)が注目されていますがトロントも同様です。日本では貧困対策として、子ども食堂や学習支援などが広がっていますが、これは日本独特の取り組みなのだなとカナダに来て思うようになりました。根底となる社会保障制度や教育制度が異なるためです。
例えば、子どもに夕食を提供する食堂などはほとんど聞いたことがありません。カナダでは11,2歳頃まで子どもは基本的には一人で外を歩きませんから(昼間であっても)、お金をもって子どもだけでどこかに行くというのは考えにくいのかもしれません。今回からトロント市の子どもの貧困対策と民間団体の活動についてお伝えします。
<統計と特徴>
カナダでは子どもの貧困率は13%だそうです(2011年OECD)。日本はシングルマザーの半数以上が貧困にあると言われていますがカナダでは、シングルマザー家庭の21%(シングルファーザーの7%)となっており、日本よりは状況は良いように見えます。
ただし状況は複雑です。トロント市は子どもの貧困率が30% (2014年Children's Aid Society調べ)と言われ、トロント市内の一部地域では40%を超えています。また(白人と先住民以外)の「マイノリティ」と言われる子どもの貧困率は約20%(非マイノリティでは5%以下)、先住民の子どもは約50%が貧困状態にあり、人種間での差が顕著になっています。
これにはさまざまな要因が考えられます。例えば…
・ほとんどの移民や難民の方がトロントやバンクーバーなどの大都市に移住すること(大都市の貧困率の高さ)
・失業率の高さ。特に移民や難民の方、マイノリティは特に仕事を得にくい
・仕事が見つかっても非正規やパートタイムの不安定な仕事が増えている
・にも関わらずインフレが続いて物価が高騰しており、所得格差も広がっている
・人種により高校の卒業率、大学進学率が違うことが、職業選択とその後の所得に影響している
・貧困が世代を超えて連鎖してしまっている
・先住民族の多い北部と中心部では、リソースや得られる仕事に大きな差がある、など地理的な要因もあります。
ちなみに、カナダの世帯所得(税金など再分配後)の中央値(平均値ではない)は6万8千カナダドル(日本円で約620万)。トロントのあるオンタリオ州は約7万カナダドル(約630万円)です(2011)。
http://well-being.esdc.gc.ca/misme-iowb/.3ndic.1t.4r@-eng.jsp?iid=21 なお、日本は全世帯の再分配後の所得の中央値は415万円でした(2013年)。
このような複雑な状況の中、トロントでは子どもの貧困に対して行政や民間団体が様々な活動を行なっています。
<トロント市の取り組み:Neighbourhood Improvement Areas >
トロント市は、市内を140の細かい地域に分け、31の地域をNeighbourhood Improvement Areas (NIAs)、改善エリアに指定しました(2014年までは13地域)。これらの地域は、2020年までに公園やスポーツコートなどインフラ整備の他、今後どのような政策をおこなっていくかを、住民とワーキンググループを作って決定し実施していく予定だそうです。
また、これらの地域では、市が行っているスポーツや音楽教室が無料であったり、医療や保健サービスを無料で提供するヘルスセンターなどの拠点を設けているなど、様々な面で差別化されています。(ちなみにスポーツ教室は、無料でない地域でも比較的安いため水泳、アイスホッケーなど人気のものは、登録日の朝に数分で埋まってしまうそうです。)またトロント市では、子どものための教室は、無料でない地域でも、申請すると所得に応じて実質無料になるバウチャーがもらえる制度があります。
このように、地域を指定して集中的に投資をすることは住民の貧困率のデータを見ると必要な政策なのですが、この区域が地図上ではっきりと明示されているため、その地域にスティグマ(偏見)が生まれたり、マイナスイメージが定着してしまうのではないかという批判もあります。(次回に続く)