ソーシャルワークとカウンセリング(3)課題の明確化

ソーシャルワーク・タイムズ vol78 子連れソーシャルワーク留学 in カナダ vol.24より転載

· メンタルヘルス

6月25日(木)に子どもたちの学校が終わり、長い長い夏休みに突入したカナダです。今年の夏休みは特に長くて9月7日までお休みです。

この長い夏休み、ほとんどの子どもが何かしらのサマーキャンプに参加します。「キャンプ」と言っても、日中に通うデイキャンプが多く1週間単位での申し込み。キャンプは本当に沢山あって、トロント市や教育委員会(学校)が主催するもの(無料〜低価格)、NPO、教会やスポーツチーム(補助があって安いものもある)、大学や私立学校が主催するスポーツや実験教室や学習を重視した値段の高いもの、博物館や動物園、科学館が行うもの、自然の中でのお泊まりのキャンプなど種類もとても豊富です。

キャンプで子どもたちの指導にあたるのは大学生が多く、夏休み中のアルバイトやインターン、ボランティアをします。北米では就職や大学、大学院に入る際、ボランティアやアルバイトの経験なども評価されるため、夏のキャンプの仕事は学生にとって大切な機会にもなっているようです。子どもたちにとっても普段できない経験ができて(勉強もないし)楽しそうです。

さて、先週はカウンセリングを行う前提であり、どんな手法を用いる場合にも次の3つの要素が重要であることをお伝えしました。

それらは、

1. クライアントの課題の明確化を行う

2.カウンセリングを通しての目標設定を行う

3.カウンセリングの内容や手法について説明し同意・協力を得る、です。

今回は「1. クライアントの課題の明確化を行う」について考えてみたいと思います。(前回までは「問題の明確化」と書いていたのですが、後述するように必ずしもクライアントの「問題」ではないので「課題」という語に変えてみました。)

クライアントが相談やカウンセリングにくる場合、何かしら「問題」を抱えていることが多いです。中には学校や病院、裁判所から「行きなさいと言われたので…」と渋々カウンセリングに来られる方もいます。面談では会話やワークを通じて、クライアントの状況を明らかにし、何を「問題」として捉えているのか、そこでどのような生き辛さなどの課題があるのかをあぶりだします。

クライアントによっては「(言葉でうまく説明できないけれど)何もかも辛い」「分からない」など言語化が難しい場合や、最初に「問題」として捉えていたこと(主訴)とは違うところに課題や原因があるのでは?とワーカーが感じることが少なからずあります。

カウンセラーは基本「質問して」「受け止める」を繰り返すことでクライアントの課題に迫っていきます。クライアントが気付かない視点や感情、矛盾する点も質問を繰り返すことで明らかにしていきます。

最初のステップとも言えるこの「課題の明確化」に長い時間を費やす必要があることもあります。クライアントの課題が明確にならない限り、クライアント自身がその課題に取り組んでいこうとは感じられないためです。また「課題の明確化」自体が面談・カウンセリングの目的となることもあります。

以前もお伝えしましたが、面談・カウンセリングの際、ワーカーはクライアントが様々な「インターセクショナリティ」の中で生きていることを考えなければなりません。クライアントにはそれぞれ個別の世界があり、社会や周囲からの様々な抑圧があり、そしてそれに対する捉え方も多様です。

この考え方を基礎として、課題の明確化だけではなく面談全体を通して大切となるのが、「クライアントが『問題』として捉えている事象は、本当に『クライアントの問題』なのか」という視点です。カウンセラーとクライアントとのやり取りの中で自分の世界を紡ぎ直していくと、クライアントの抱えている「問題」は「自分自身の問題」ではなく、実は「社会の仕組み」や「相手の問題」であることに気付く場合があります。そのような場合には、社会の不公平な仕組みや抑圧、理不尽な関係性について明らかにし、意識化していきます。

そういった社会の仕組みや関係性に気付いた時、クライアントはさらにワーカーとのやり取りの中で、自分の本来持っている力に気付き、力を引き出し自尊心が上がる、いわゆるエンパワメントしていくことがあります。しかし、社会や人間関係はそう簡単には変わりません。(よく「自分が変われば周りも変わる」というような自己啓発の本がありますが、カウンセリングに来られるクライアントさんは既に多くの本や情報をもとに、さまざまな方法を試している方もいます。それでもだめでカウンセリングに行こう…という場合も多いのが現実です。)

「問題」のある社会や関係性の中でサバイブして行くためには、何らかの知恵や技術が必要となります。それらは、面談・カウンセリングの中で、コミュニケーションを練習することかもしれませんし、社会の仕組みや抑圧について知識を増やすことかもしれません。逆にその社会や関係性から逃げることを選ぶ場合もあります。社会の中では抵抗しないで生きつつ、安心・安全な場(例えばカウンセリングもそういう場でありうる)で自分の感情を放出したり、自分自身を癒すという手法を選択するかもしれません。

このように「課題の明確化」は、シンプルなようでとても難しいプロセスです。クライアントのライフステージによっても、課題大きく変わりますし、社会の仕組みや抑圧、周りの人の対応によっても変化します。ですから、カウンセラーや支援者が何もしなくても、時が過ぎれば「問題」がなくなることも多いです。

それがなくならないことも多いので、福祉の専門職はクライアントが苦しい社会を変えていくという立場も担わなくてはなりません。

人生のエキスパートは本人」ですから、カウンセラーやワーカーができることは限られていて、何かを変えるなんてそうそう出来ることではありません。それでも目の前にいるクライアントに集中し、訴える内容に耳をかたむけ、一緒になって真剣に考えることが大切だと思っています。そういう存在がどこかにいるということを感じることで、クライアントの人生がガラリと変わることも(ごくたまに)あると思うからです。

次回は2.目標設定をする、3.内容や手法について説明し同意・協力を得ることについて考えたいと思います。